【任意整理の事例2|住宅ローン支払いを継続したケース】

住宅ローン支払いを継続したケース

任意整理を実際にやったら、どんなやり取りになるのか?

 

弁護士が書いた本(※)に実例が出ていたので、そのアウトラインを紹介します。

 

2例目は住宅ローンの支払いを継続して家を残し、他の債務を任意整理した例です。

 

詳細を知りたい方は下記の本を入手してください。

 

会話の様子や使う書類の見本まで収録された良書です。

 

※「事例に学ぶ債務整理入門」 民事法研究会刊

 

依頼者の状況

依頼者Xは結婚5年目。

 

毎月15万円のローンを払ってマンションに住んでいる。

 

ほかには銀行のカードローン、ショッピングのカード会社への支払い、車のローンがある。

 

最近は各種のローンを滞納し始めており、督促状が届くようになった。

 

そのため、任意整理を希望して、法律相談を申し込んできた。

 

妻は有職者だが、うつ病を発症して以来、買い物依存症やパチンコ依存症の兆候が見られた。

 

一時休職していたが、今は復帰している。

 

法律相談初日

依頼者Xは一人で不安そうな様子でやってきた。

 

債権者一覧表などの資料は何も持っていないし、奥さんの借金については何もわからない状態。

 

そんな状態でも法律相談できるかと聞かれて、弁護士は問題ないと答える。

 

多重債務者は精神的に追い詰められているので、そんなものだと思って臨まなければならないとこの弁護士は述べている。

 

話を聞いて、住宅ローンやX当人の借金の様子はわかった。

 

家計は妻が管理していてわからないし、妻も借金があるようだが内容はわからない。

 

破産の説明

Xは以前に別の弁護士事務所に相談に行ったことがあると言った。

 

いきなり破産しかないと言われてショックを受け、別の先生にも相談してみようと思い、ここに来た次第。

 

破産に強い抵抗があるXに、この弁護士はまず破産の正確な内容を説明する。

 

返済計画に無理があるのに任意整理を選ぶと、結局途中で座礁して、改めて破産や個人再生を行わなければならなくなる。

 

最初から破産していれば、そこまで返済に使ったお金や改めて行う破産・個人再生の費用を自分のために使える。

 

破産すると選挙権がなくなる、解雇される、戸籍に傷がつく、といった俗信を信じている人は多い。

 

そんなことはないんだ、選挙権はなくならないし、戸籍にも載らないし、破産が理由で解雇したら違法だということ。

 

破産はメリットも大きいんだ、ということを最初に説明しておくことが大切だとこの先生は言う。

 

銀行系列の会社に勤めているため、人事部が官報をチェックしていて破産者は解雇されるに違いないと心配していたXは、説明を聞いて安心した。

 

破産を含めて弁護士の選択に従う覚悟ができた。

 

任意整理の説明

次にこの弁護士は任意整理とはどういうことか説明する。

 

消費者金融から借りたのは最近の事なので、過払い金は多分ない。

 

整理方法はさまざまで、未払い利息のカットだけが唯一の方法ではないらしい。

 

  • 利息分のカットをお願いする
  • 一定額まで払ったら、残りは債務免除をお願いする
  • 年数を伸ばして毎月の支払額を抑える
  • しばらく支払いを猶予してもらう

 

しかし、最近は減額に応じず、分割で全額支払いを求めるケースが多いとのこと。

 

おまとめローンに関する指導

一方、Xの方からは銀行のおまとめローンはどうだろうか、という相談があった。

 

これは一部の銀行が多重債務者向けに出している商品で、現在の残債分を融資して、以後は銀行への債務1本にするもの。

 

弁護士は以下の3点に注意しながら、審査を申し込んでみてもよいと指導した。

 

  1. 金利は元の状態より低くなるか?
  2. 債務総額の増加にならないか?
  3. 無担保型か有担保型か?

 

任意整理して債務を減額してからおまとめできれば理想だが、それは非現実的だ。

 

債務整理すれば信用情報に傷がつき、おまとめローンの審査に通らなくなるからだ。

 

つまり、審査に通った場合も、おまとめか債務整理かの2択になる。

 

信用情報の説明

Xはすでに信用情報に傷がついていて、おまとめローンの審査に通らないのではないかと心配しだした。

 

そこで、弁護士は信用情報(俗に言うブラックリスト)のしくみについて説明した。

 

主に3つの信用情報機関があり、相互の情報交換も定期的になされている。

 

日本信用情報機構(JICC) 主に信販、消費者金融、カード会社、金融機関、保証会社、リース会社が会員
シー・アイ・シー(CIC) 主に信販、クレジット会社が会員
全国銀行個人信用情報センター 主に金融機関が会員

 

これに何らかのネガティブな情報が記録されることが、いわゆるブラックリストに載るということ。

 

何をやったら載るかは不透明だが、3カ月連続で滞納したり、弁護士が介入した時点では載る可能性が濃厚。

 

Xは信用情報に傷がついたことを理由に解雇されることはないかと再度確認した。

 

Noという回答にXは安心した。

 

次回までの宿題

ここまで話して、弁護士は次回までの課題を明示した。

 

方針を決める上で確認したいこと
  1. 債権者と債務総額の把握−どこからいくら借りているか?
  2. 支払原資の把握−毎月の必要経費はいくらか。毎月支払いに充てられる金額はいくらか?
  3. 方針の決定−どうしたら債務の弁済を継続することが可能か?

 

そして次回までに持ってきてほしいもののリストを渡した。

 

  • 自宅に届いた債権者の督促状、手紙一切
  • X名義の銀行口座の通帳
  • 振込明細書
  • カード類
  • 奥さんの借り入れ状況がわかるもの(督促状、手紙、通帳、振込明細書)

 

資料の整理ができないために次回の相談に来なくなる相談者もいるので、「何でも持ってきて」ということが大切だと、この弁護士は言う。

 

次回は奥さんも同伴することをお願いし、次回の予定を決めて初回の面談は終わった。

 

初回面談を終えて

いつもならすぐに受任通知を出すが、今回はそうしない。

 

信用情報に傷が付くことを恐れて、Xは本人名義での任意整理を望む可能性がある。

 

奥さんが買物依存症やパチンコ依存症だった場合、免責不許可事由になるので、そこも不透明。

 

アクションは2回目の相談の後に持ち越される。

 

2回目の法律相談

Xと妻が指示された資料を持って来所。

 

この弁護士は事務所に来ただけで50点、資料を持ってきたことで50点、今日はこれだけで100点満点だという。

 

債務整理の相談では、依頼者が怖がって来なくなることが珍しくないらしい。

 

弁護士は持参してもらった資料のコピーを取った。

 

債権者・債権額の把握

弁護士は下記の資料からXの債務の状況を把握した。

 

  • 住宅ローンの支払計画表と請求書類
  • カードローン・消費者金融のご利用明細
  • 債権者からの督促状
  • 通帳

 

この中でローンの残っている車を売っていたことが発覚した。

 

奥さんの債務の状況も資料分析でわかってきた。

 

うつ病になり、現実逃避で浪費して借金するようになったが、今は収まっており、後悔しているとのこと。

 

弁護士は主治医に「買い物やパチンコへの依存は病気によるもので、今は病気が治っている」と診断書に書いてもらうよう頼めと指示する。

 

自己破産を選ぶしかなくなった時、その診断書が裁判所に裁量免責を求める材料になる。

 

支払原資の把握

次に弁護士は聞き取りによって、X家の収支情報を明らかにした。

 

債務総額: 住宅ローン3,700万円+他500万円=4.,200万円

 

収入: 夫50万円+妻20万円=70万円。

 

支出: 生活費29万7000円+返済58万円=87万7000円

 

差引: 収入―支出=▲17万7000円(赤字)

 

これをもとに、弁護士は現在の収支構造を夫妻に説明した。

 

収入70万円−生活費29万7000円=40万3000円

 

約40万円が返済に充てられる原資だが、現在は毎月58万円返しているので、どんどん借金が増えていく構造。

 

このまま頑張っていても悪化する一方ということ。

 

弁護士は生活費を削る余地があるか聞いたが、その方向で深く追求はしなかった。

 

削るにも限度があり、あまり無理なことをすると結局破綻する。

 

返済原資が約40万円というのを把握したところで、次の考えがあるようだ。

 

その他

Xはおまとめローンの審査に落ちたことを報告。

 

おまとめの線はなくなり、債務整理の方向が濃厚になった。

 

一方でXは実家に資金援助を依頼中であることも報告した。

 

債権者の一般的意向のリサーチ

弁護士は住宅ローン以外の借入先10社に任意整理への対応の基本方針を問い合わせた。

 

依頼者名を明かさず、あくまで一般論として聞いた。

 

債務者を明かさないと答えない会社もあったが、おおむね支払い期間は5年が上限とわかった。

 

交渉方針の提示

ここから弁護士は鮮やかに解決策を見せつける。

 

まず、負債500万円を今後は利子なしで5年で返済するとする。

 

毎月の支払額=500万円÷5年÷12カ月=8万3333円(1社当たり8,333円)

 

返済原資40万円−住宅ローン15万円=25万円

 

25万円から8万3333円払うのは余裕でできる。

 

支払額の最小値がこれで得られた。

 

ただ、8,333円ずつ5年払いを10社すべてが受け入れるとは到底思えない。

 

25万円を全部返済に充てた場合の返済期間を計算してみる。(1社当たり25,000円)

 

500万円÷25万円=20カ月

 

なんと2年未満で返済が終わることがわかった。

 

しかし、これだと余裕がなさすぎて途中で挫折する危険が高い。

 

そこで、1社の返済額を8,333円〜25,000円の範囲で交渉できたとする。

 

月々の返済総額は返済原資の範囲で収まり、かつ返済期間も各社とも5年以内に収まる。

 

これに加えて、Xの実家から資金援助の可能性がある。

 

どうしても返済総額が25万円に収まらなかった場合、住宅ローンをしばらく利払いのみにしてもらう交渉も考えられる。

 

何とかなりそうだ。

 

この話を聞いてX夫妻の顔が希望に輝いた。

 

受任

この2回目の相談の終わりに、弁護士はX夫妻から任意整理の委任を受けた。

 

債権者との交渉

弁護士は任意整理の手順を実行に移した。

 

まず債務者に受任通知を送り、取引履歴の開示を求める。

 

返済案を提示し、了承されたら、合意書を作成して双方で捺印する。

 

その繰り返しである。

 

交渉はスムーズに進行した。

 

イレギュラーはローンが残っているのに売った中古車の件。

 

カーローンの業者から訴状が届いたが、5年内完済の線で訴訟上の和解ができた。

 

支払い開始

お金を預かって返済を代行するところまでする弁護士事務所もあるらしいが、ここはそれはしていない。

 

人手が足りないし、不手際で支払いが遅れると依頼者に大変な迷惑がかかるから。

 

そのかわり完済まで受任することとし、毎月領収証を送ってもらうことにした。

 

 

 

1例目は多額の過払い金のおかげで予想外のハッピーエンドでしたが、今後はそういうことは稀になります。

 

グレーゾーン金利がなくなって年月が経ち、過払い金が発生するケースはどんどん減っているからです。

 

今後の任意整理にはこの2例目の方が参考になるでしょう。

 

持ち家を残したいという希望も普遍的なもので、それに成功したこの事例は何度も読み返す価値があると思います。