サラ金被害問題の一大転機
2000年頃までサラ金・商工ローンなどの被害は拡大する一方で、大きな社会問題になりました。
ついに国政が動き、平成18年(2006)に貸金業法が改正されて、流れが大きく変わりました。
ここでは平成18年(2006)の貸金業法改正の内容を説明します。
改正に至る経緯
91年にバブルが崩壊し、お金に困った家庭や事業者が増え、サラ金・商工ローンの需要は増しました。
その一方、景気は一向に回復せず、借りたお金が返せなくて自己破産などに追い込まれる人も増えました。
それまでも何度も社会問題として取り上げられていたサラ金問題が、90年代末には社会問題として極大化していました。
同じころ、商工ローンの問題が国会で取り上げられ、代表的企業の日栄や商工ファンドの経営者が国会招致されたりしました。
事業者向けの消費者金融でも、全国で深刻な事態が起きていたのです。
しかし、2000年代に入っても消費者金融は繁栄を続け、経営者が長者番付を独占したりしました。
こうして消費者金融・商工ローンの繁栄と社会問題がピークを迎えた時、ついに法を改正する動きが起きたのです。
平成18年(2006年)成立の貸金業改正は多くの内容を含み、問題を総合的に解決しようとする動きだったといえます。
平成22年(2010年)までにすべての内容が施行されました。
その後、多重債務者の問題は大幅に改善しました。
平成18年の法改正は、サラ金被害問題の一大転機だったと言えます。
改正法の概要
改正法は、多重債務者の発生・増大をいかに防ぐかという観点から多角的に検討されました。
そして、問題の本質が次の2点に絞り込まれました。
- 利息制限法の上限を超える高利を課されていること
- 返済能力を上回る過剰な貸し付けが行われていること
改善策として、次の4点が骨子になりました。
- 上限金利を下げる
- 過剰貸し付けを抑制する
- 貸金業者の参入規制を強化する
- ヤミ金融の厳罰化
1と2はセットで実施することが大切とされました。
3は零細で企業として確立されていない業者ほど過剰貸し付けや乱暴なことをしがちなので、そういう業者の参入を許さないようにしようということです。
また、消費者金融・商工ローンの規制を厳しくすれば、借りられなくなった人が闇金に流れて、被害が深刻化するだけだという反論がありました。
だから4もセットになったわけです。
改正法の内容・その1 金利体系の適正化
まず、金利体系の適正化のために次のような事が決められました。
グレーゾーン金利の撤廃
法定上限金利を定める法律は、利息制限法と出資法の2つがあり、出資法の上限の方が高く、それを超える金利を取ると刑事罰を受けます。
しかし、利息制限法の上限を超えても、出資法の上限未満なら罰則は何もない状態が長く続いていました。
これが合法と違法の境目という意味の「グレーゾーン金利」で、消費者金融・商工ローンの暴利の源泉になっていました。
改正法では、利息制限法の上限を超えた場合に、業務改善命令・業務停止・登録取り消しなどの行政罰を下すことになりました。
みなし弁済の撤廃
グレーゾーン金利に加えて「みなし弁済」というおかしなものも存在して、貸金業者の暴利を保護していました。
グレーゾーン金利が違法ではあるが、罰則はないので現実にはそれで貸し借りが行われているのは仕方ない、と仮に認めたとします。
しかし、違法である限りは、支払った後で請求した場合は返金してもらえるルールであるべきです。
でないと、もはや合法と何の差もなくなってしまいます。
ところが改正前、グレーゾーンで払った金利は、「有効な金利の弁済とみなす」というルールになっていて「みなし弁済」と呼ばれていました。
しかし、改正でこれは撤廃され、返済中でも完済済みでも、取引開始時点に遡って、利息制限法の上限を超えた支払い金利の返金を請求できるというルールに変わります。
これが「過払い金」です。
上限金利の引き下げ
加えて、出資法の上限金利が29.2%から20%に引き下げられました。(施行は平成22年・2010年から)
これで刑事罰のない違法金利ゾーンも狭まりました。(このゾーンは、今は行政罰だけが下ります。)
改正法の内容・その2 過剰貸し付けの抑制
改正法以前の過剰貸し付けの抑制は、形式的で実効性の薄いものでした。
無担保・無保証の貸付を1回50万円または年収の10%以下としていましたが、これは繰り返せばいくらでも貸せます。
しかも違反しても罰則はありませんでした。
改正法は、一人への貸付の総量を規制することにし、かつ違反者は行政処分の対象にすることに決めました。
指定信用機関制度
さて、総量規制のためには、個人ごとのいろいろな貸金業者からの借り入れ内容を一元的に把握していて問い合わせることができる機関が必要です。
消費者金融業界、銀行業界といった業界ごとに信用情報を管理する機関はできていたので、政府はこれを利用することにしました。
それらの中から指定信用機関というものを指定し、機関相互の情報共有を義務付けました。
こうして業界のための私的団体だった信用機関は、社会的な役割を帯びるに至りました。
調査義務と過剰貸し付けの禁止
借り入れ希望者の信用情報を調べられる環境を整えた上で、貸金業者の義務が定められました。
- 指定信用機関を利用して、申込者の借入残高などを調査しないといけない
- 一定以上(※1)の大きな貸付では収入証明(※2)の取得せねばならない
- 他社と合計で年収の1/3以上の貸付は禁止(※3)
※1 自社からの借入残高が50万円以上、または他社合計で100万円以上の場合
※2 源泉徴収票や確定申告書の写し
※3 売却可能な資産がある場合は別
返済額の適正化
リボ払いなどが定着し、返済額が少額すぎるため、返済総額への意識が薄れる結果、返済不能に陥ることも問題として取り上げられました。
利用者への元利負担の説明書交付の義務化や毎月の返済額の業界自主規制などが決まりました。
改正法の内容・その3 貸金業者への規制強化
参入規制の厳格化
改正法前の参入要件は、純資産額で個人は300万円、法人は500万円以上でした。
これを段階的に引き上げて、2010年(平成22年)には個人・法人共通で5,000万円以上とすることが決まりました。
また、貸金業務取扱責任者の資格試験を作り、合格して登録した人を事務所に置くことも義務付けました。
行為規制の強化
強引な貸し付け勧誘や取り立て行為への規制と、行政処分の制度が強化されました。
改正法の内容・その4 ヤミ金融対策の強化
改正案については、貸金業者が「我々から借りにくくなれば、消費者が闇金に流れて、事態が悪化するだけ」という反論が根強くありました。
そこで闇金対策の強化も盛り込まれました。
年利109.5%以上の金利を取ると、「10年以下の懲役・または3,000万円以下の罰金」という罰則が新たに設けられました。
また、無登録営業の罰則も、従来の「5年以下の懲役・または1,000万円以下の罰金」から「10年以下の懲役・または3,000万円以下の罰金」に引き上げられました。